HOIKUSHI JOB JOURNAL

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保育について考える

【保育園の人間関係×コーチング】ある理事長の「どこの保育園も同じ悩みを抱えていますよ」がきっかけに。(前編)

保育の質=保育者同士のチームワークの質。その保育園における先生同士の関係性に着目し、コーチングの手法で組織開発を手がけるプロジェクト「保育園の笑顔」を立ち上げた川添さん、木村さんにお話を伺いました。

保育士が笑顔でないと、子どもたちも笑顔になれない

ーまずお二人のこれまでのキャリアを教えてください

川添:2001年に社会保険労務士事務所を開設し、社労士の一般業務のほか、人事コンサルティングにも関わらせていただきました。その開業当時に、まだ日本に入ってきて日が浅いコーチングに出会ったんです。「答えはクライアントの中にある」というコンセプトに感銘して、自分自身もコーチをつけながら事業の道を開いていきました。そして、人事コンサルティングに関わる中で、「まさにこれ(コーチング)こそが会社という組織における多くの問題を解決できる」と確信するようになったんです。
そこでまず、主にリーダーを対象とする個人向けのコーチングの資格*1 を取得し、その後に人と組織の関係性に働きかけるシステム・コーチング*2を学んで組織開発の支援の幅を拡げていきました。現在はコーチとして経営・マネジャー層に対するコーチングと組織やチームへのシステム・コーチングを主軸とした組織開発の支援を行っています。

木村:私は新卒で大手人事ソリューション会社に入社し、人事制度構築に関するコンサルティング営業や企業向けトレーニング事業での講師マネジメントに携わりました。その間、結婚から産休、育休、保活を経て復職してワーキングマザーとなり、女性が働くことや家族とともにある人生といった側面でのサポートをする仕事への熱意が高まっていきました。そのような流れから、川添と同じくCTIでコーチングを学び、2013年に独立しました。
企業などの組織・チーム向けのシステム・コーチングやワークショップ、研修講師と並行して、主に働く女性や家族について考えたい男性、夫婦・カップル、妊活中の方、妊活中のご夫婦やカップル、ビジネスマンといった方々のコーチングを行っています。

ーお二人が保育園向け組織開発のプロジェクト「保育園の笑顔」をはじめたきっかけは?

川添:ある時、知人から保育園を運営する法人様の紹介を受けたんです。それまでは、保育園という業種そのものに特別な縁はなかったのですが、私自身子どもが3人いて母親でもあるので、もともと関心はありました。それで実際にその保育園で起きている問題を伺って、驚いたんです。「これはまずい」と。子どもたちの笑顔を支えるはずの先生たちが、笑顔になれない。その主な理由が先生同士の人間関係上の摩擦やコミュニケーションにある。
「私たちが笑顔にならないと、子どもたちも笑顔になれないですよね…」
現場の方々や理事長さんからそんな言葉を聞いて、もっともっと保育士さんには輝く笑顔でいてほしいと強く感じたんです。
私たちが行っているシステム・コーチングは、関係性があるところであればどこでも効果を発揮するものですが、保育園という職場を見たときに、ものすごくその必要性を感じました。

ただ、システム・コーチングという手法については、一人でコーチを行うよりも二人での方がより効果的に支援できるのが明らかなんですね。それで、お母さんであり、リーダーシップやシステム・コーチングといった文脈を共にしてきた木村に「こういうことを考えているんだけどどうかな?」と持ち出したのがきっかけです。

木村:2015年1月ですね。私もちょうどその頃、一人の母親として自分の娘が通っている保育園の先生同士の人間関係について何となく想像したり、見聞きしたり、思うところがあったんです。川添からその保育園の実状の話を聞いて、子どもが初めて接する職業人である保育の先生たちには良い人間関係で仕事をしていてほしいし、そういう後ろ姿や笑顔で働く姿を子どもたちにも見てほしいと感じました。それで、二つ返事で是非やろう!と。

保育園で起こる人間関係の問題を知って、子どもたちの将来が危ういと感じた

ー保育の先生を元気づけられたら、結果として子どもたちも元気になれますよね。

川添:そうなんですよね。小さい頃にこの世の中をどう見るかでその子の人生が変わると思うんです。ギスギスした人間関係の中で、笑顔になれない保育園の先生がいることで、それを見た子どもたちの人生がある意味決まってしまうのではないかと思えてしまい...それがすごく嫌でした。もちろん保育士さんにもイキイキ仕事してほしいという願いはあった上でですが、子どもたちの将来が危ういと感じたのが一番の取っ掛かりですね。

ーそのきっかけになった保育園さんでは、どのような形でコーチングをスタートしたのですか?

川添:まず紹介を受けて理事長さんとお会いすると、開口一番で「うちの先生たちどうにかならないでしょうか」と。話を聞いていくと、ものすごく現実的といいますか、人と人との関係性があるところならどんな職場にも起こりうるような摩擦から始まるものだったんです。その時の問題というのは、職員の数が増えたことで保育の質が職員個人の力量頼みになっていくのを改革しようと、会議で実行案としてのマニュアル作成を示したが誰も乗り気にならない、といったものでした。トップダウンの実行案に現場も一見同意したかのように見えたものが、実はまったく理解を得られていないという状態です。

なぜそれが手つかずに実行に結びつかないかというのは、システム・コーチングで理論付けられるんですね。そのお話を理事長さんにさせていただくと、「まさしくそれがうちで起こっているのだと思います」と。ただ、システム・コーチングそのものの全容をお伝えし、結果として「こうなります」というソリューションの方法ではないため、スタート段階では「こういうことが起きているんですね?その改善方法としてこんなプログラムがありますが、やってみましょうか」という具合に進んでいきました。

ーシステム・コーチングというのはケース・バイ・ケースで形を変えて効果を発揮するものなのですね?

川添:そうなんです。結果として「みなさんがこういう関係性になります」ということをお約束するということではなく、「みなさんがどうなりたいか?」を明らかにし、その過程を支援するのがシステム・コーチングということです。みなさんが思う理想の状態を出やすくした上で、そこに向かうプロセスを支援するというものです。

保育園をインタビューして回って分かった、人間関係を悪化させる4つのケース

ー2015年から「保育の笑顔」の活動を始められて、保育事業者からはどのような相談が多いですか?

川添:そう、その立ち上げのきっかけになった法人の理事長さんから、「どこの保育園も同じ悩みを抱えていますよ」と言われたんですね。でも自分たちの目と耳で確認してみないと本質は分からない。なので、この一年間は、私と木村の二人で色んな保育園を知人に紹介してもらいながら話を聞いて回ったんです。

木村:—いろんな保育園経営者の方々や園長先生をインタビューした中で、保育園における人間関係の課題は大体4つのケースに分かれるということが分かりました。

まず一つ目は、保育観・仕事観の違いが人間関係を悪化させているケース。
例えば、世代が上の保育士や保育補助の方が古い保育観や自らの子育て経験にこだわり、若い保育士が疲弊してしまう。保育士、保育補助、正社員、パートといった立場の違いによる遠慮やコミュニケーションから来るものも多いようです。また、社会人経験が浅いことからくる、報告・連絡・相談など基本的な仕事の進め方を知らないことで職場でのストレスを抱えてしまうパターンも多いように感じました。

次に、マネジメントの課題そのものが人間関係の軋轢となって露呈しているケースです。園長や主任、リーダーが—適切なフィードバックの仕方を知らない、上長である立場の人が起きた事柄ではなく個人を攻撃してしまう、などです。
マネジメント層が指示命令するばかりで、モチベーションを上げるフィードバックができないと法人という組織の中でメンバーは付いてこない構図になってしまいます。一方で、若い保育士がフィードバックの受け取り方を知らずに「怒られた!」とすぐ落ち込んでしまうようなケースも多いです。

続いて、同僚同士の基本的なコミュニケーションがまずいパターンもあります。本音でより良くするための話し合いをすること、つまり、健全な対立の仕方を知らないかったり。あら探しをしたり、誰か1人に責任を押しつけたり、責任を逃れるような言動をしてしまうようなケースです。

最後に、自律的に仕事ができないメンバーが散見されるケースも多いようです。
自分で考えることに慣れていない「—指示待ち」なメンバーがいる。それによりチーム全体が悪い方に流されてしまう。
—あるいは、仕事に必要となる基本的な声かけができないメンバーがいることで、それに対するストレスを抱え人間関係に影響してしまうこともあります。

ーそのような課題を抱えた保育業界に対して、どのような印象を持たれましたか?

川添:ある意味、他の企業や業種よりも熱意を持った方が多いのだと思います。ただ、根本的には利益重視の志向ではない世界なので、法人によってはどうしても事業体として未熟な面も多いと思います。これまで様々な企業様の人材育成や組織開発に関わってきましたが、相対的に見ると普通なら当たり前に行われているはずの教育がすごく遅れている世界かもしれないと感じました。若手から中堅、主任、副園長、園長へとポジションが上がっていく中で、都度必要になっていく要件をクリアしていくというプロセスが不十分になりがちないのだと思います。

自分自身を導くような強いリーダーシップを持った人が保育園という組織に少ないのではないか。包み込むような「優しさ」と「強さ」のバランスです。保育に限ったことではなく仕事をする上で大事な素養ですが、どうしてもその「優しさ」の色が強い人が多いものだろうなと。

木村:あと、自分たちの特殊性を分かっているから、一般企業向けにやっている人たちにいくら言っても分からないだろう、という偏見を持った方が多いのを少なからず感じます。私たちの場合は、保育園に向けた課題解決のお手伝いをする人間として向き合わせていただくので、フラットに「もしかしたらこの人たちなら」という具合に接してくださるのを感じます。


【後編へ続く】保育士同士が本音で向き合う姿勢が大切。そのためには…


*1 CPCC(Certified Professional Personal Coach)
CTI認定 プロフェッショナル・コーアクティブ・コーチ
*2 ORSCC(Organization Relationship System Certified Coach)
CRRグローバル認定 組織と関係性のためのシステムコーチ


【団体ホームページ】
保育園の笑顔:http://www.hoikuen-smile.com/



【プロフィール】
川添 香
CTI認定プロフェッショナル・コーアクティブ・コーチ
CRRグローバル認定 組織と関係性のためのシステムコーチ
社会保険労務士

1980年國學院大學卒業後、福島県商工信用組合に入組。その後、社会保険労務士事務所の開設、人事ソリューション企業での中小企業向け人事コンサルティング・人材開発研修に携わり、「よりよい人生を送る人を増やしたい」と、KAO Coaching Spaceを開設し、パーソナル・コーチングに力を入れ始める。組織を変革させたい中小企業に、エグゼクティブ・コーチング、組織のシステム・コーチング、研修を提供中。2015年4月、保育園向けに人間関係構築プログラムを提供する「保育園の笑顔」を開設。


木村 史子
CTI認定プロフェッショナル・コーアクティブ・コーチ
CRRグローバル認定 組織と関係性のためのシステムコーチ
一般財団生涯学習開発財団認定ワークショップデザイナー

1973年4月7日生まれ。O型 おひつじ座。東京都大田区出身。
慶應義塾大学総合政策学部卒業後、株式会社リクルートマネジメントソリューションズにて一貫して人事ソリューション事業に携わる。自身の結婚・不妊・出産・ワーキングマザーとしての経験を経て、ビジネスだけでなく、個人の人生全体をサポートすることにシフトし、コーチとして独立。2015年4月、川添と共に「保育園の笑顔」を開設。