HOIKUSHI JOB JOURNAL

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保育について考える

【保育園の人間関係×コーチング】保育士同士が本音で向き合う姿勢が大切。そのためには…(後編)

保育園における先生同士の関係性に着目し、コーチングの手法で組織開発を手がけるプロジェクト「保育園の笑顔」を立ち上げた川添さんとい木村さん。後編では、職場で良い人間関係を作り上げる秘訣やコーチングによる関係性構築の実践内容について伺いました。

人間関係の課題を解決する目的は「保育の質を上げる」こと

ー保育園という組織ならではの課題について、コーチングの研修やシステム・コーチングはどのようなの効力が期待出来ますか?

川添:そもそもコーチングを何のためにやるのか?ということにになりますが、「保育の質を上げるため」なんです。ということは、その質を上げるための人間関係をつくるにはどうしたら良いか。コーチングは、その人間関係の課題を解決するために、人間関係を作り上げていく過程を支援するというものです。
MIT(マサチューセッツ工科大学)教授のダニエル・キムが提唱している「組織の成功循環モデル(※)」というものがあるのですが、その話もよくさせていただきますね。
※参考:http://kao-space.com/manager/

組織に影響を与える「思考の質」「行動の質」「結果の質」「関係の質」という4つの質のサイクルにどうはたらきかけるかを示したものですが、良い結果を得るためにはまず、「関係の質」を改善することから始めるべき、というものです。

経営者だとまず売上や成績といった「結果の質」を見ます。そして、その結果を変えるために、行動の質を無理してでも変えようと考えてしまいがちです。短期で結果を出したいわけですから。すると何が起きるか?現場のメンバーが、自分の気持ちが乗らないまま行動を変えろと言われる。結果の質が下がるんです。そして、結果が悪くなると関係も悪くなる。「お前のせいだ」「あいつのせいだ」と。そうなると、思考まで「何をやってもだめだ」と考えるようになり、その結果、行動もともなわなくなる負のサイクルに陥ります。

逆に、行動ではなく「関係の質」からはたらきかけると、「みんなでがんばろう」という思考の質がまず変わります。それが行動にも表れていき、行動が変わるので結果も変わる。このサイクルをぐるぐる回りながら組織は開発・改善されていきます。
まさしく、先ほどの例に出た保育園ではこのシステム・コーチングを導入したことで、離職率50%だったのがゼロになりました。

木村:行動にはたらきかけはじめると、上長と部下、園長と職員といった間柄で絶えず進捗に関わらなければならなくなりますよね。でも、関係性が変わると自走するんです。

川添:最終的には「自分たちの保育園」という意識が当たり前になるんですよね。「私たちの」という言葉が自然と会議でも出てくるような、一つひとつを自分事として受け止めるメンバーでまとまっていくものです。

自園の悪い面や課題ばかりを探るのではなく、ポジティブな側面についてもじっくり考える機会が必要

ー実際のコーチングでは、どのような流れで支援をスタートされることが多いのですか?

川添:まずインタビューからですね。どのメンバーにインタビューをさせていただくかの選定から関わらせていただきます。一人ひとりのお話を聞いて、そこから診断(見立て)を始めます。その後、状況や課題に応じたプログラムを複数回に渡って実施していきます。

ただ、保育士さんは忙しいので、長時間の会議を行うことは難しいですよね。最長でも2時間くらいしか取れないことが多いので、2時間のプログラムを6〜8回くらい行うシステム・コーチングを提案することが多いです。その後に、しばらく期間を置いてからフォローアップの支援を行います。

ー外部の人が園のメンバーの関係性の中に踏み込むことについて、抵抗を持つ現場の方も多いのでは?

川添:それはありますね。ただ、はじめのインタビューにはその壁を取り払う目的もあります。全員の前ではなく、一人一人と相対してお話さえていただくので、すぐにその壁はなくなりますね。普段、仕事で気になっていることについて一対一で話すわけなので、ガス抜きにもなります。インタビューだけでかなり効果があります。

木村:中々インタビューの時間が取れない場合は、アンケート形式でヒアリングすることもあります。「今の園のどんなところが良いと思いますか」「メンバーの一体感についてどう感じていますか」といった質問をしていきます。

川添:ここでポイントなのが「どこが悪いですか?」だけではないんです。いかに自分たちが良いチームなのかに気づくような質問も入れてあります。問題点だけをほじくるようなことはしないんです。

保育士同士が本音で向き合う姿勢が大切。そのためには…

ーなるほど。客観的な立場の人がそういった形で関わること自体も効果的であるように感じますね。
 保育園という職場で良い人間関係をつくるために一番大切なことって何でしょうか?


川添:メンバー各々が「本音」を語ることですね。良いことも、悪いことも、全部語れるのはすごいことです。そのためには、各人に自己開示の姿勢が必要です。自己肯定感をその人自身が持っているかどうかに大きく関わってきますね。

木村:子どもたちに自尊心を根付かせていってあげたいと考えても、保育士自身に自尊心が育っていなかったらそもそも無理な話ですよね。保育の世界には、実はその自尊心が確立されていない人も多いのではないかという仮説があって。
子どもとどう関わるか?よりも先にまず自分がどうあるべきか?という点から始まりますよね。

川添:100%でなくてもいいんです。しっかり根っこに持てていれば、社会で色んな人に関わる中で自然と育っていくものです。その意味では、やはり採用の時点でどこまで人を見極められるかが大事になりますね。ある程度の素養を身につけた人を採用できるかどうか。自分のことをどれだけ知っているか、という視点です。その人がどのような人生観を持った人なのかを見極めた上で判断していくことが必要だと思います。

そして、園の保育理念とその人の思いが合致するかどうかを判断できるかどうか。保育園側がしっかり自分たちの理念を確立できていないと、どういう人を採用すべきなのかが見えてきません。
ただ、採用の時点では多少考え方や理念に離れていてもいいんです。採用の段階で、今後どれほど私たちのビジョンに近づいてくくれるか?を探ることができれば。

ー最後に、今後の展望をお聞かせください

川添:コーチングのプログラムをより気軽に導入していただける研修の提供にも力を入れていこうと考えています。もともとシステム・コーチングは少し重めのプログラムと言いますか、関係性の中に切り込んでいくものなので、これまでの経緯や過去があるところでないと始められません。もっとシンプルに、「人間関係をつくるにはこうしたら良いよね」っというものを保育園という職場に特化した形の研修として用意しているところです。

木村:実はシステム・コーチングよりも先に、この研修の提供から進めていこうとプロジェクトを始めたのですが、システム・コーチングの引き合いが想像以上に多かったんです。保育園における人間関係の難しさは相当に根深いことを痛感させられましたね。
なので、いざこざが起きる前に手を打っておける予防措置にもなり、今よりももっと自走して躍動していくチームになるための研修も大切だと。研修といっても、メソッドが確立しているので、園の事情によってカスタマイズした様々な形式で取り組めます。



【前編はこちら】ある理事長の「どこの保育園も同じ悩みを抱えていますよ」がきっかけに。



*1 CPCC(Certified Professional Personal Coach)
 CTI認定 プロフェッショナル・コーアクティブ・コーチ
*2 ORSCC(Organization Relationship System Certified Coach)
 CRRグローバル認定 組織と関係性のためのシステムコーチ
 本文中に掲載されている<システム・コーチング>は、CTIジャパンの登録商標です。


【団体ホームページ】
保育園の笑顔:http://www.hoikuen-smile.com/



【プロフィール】
川添 香
CTI認定プロフェッショナル・コーアクティブ・コーチ
CRRグローバル認定 組織と関係性のためのシステムコーチ
社会保険労務士

1980年國學院大學卒業後、福島県商工信用組合に入組。その後、社会保険労務士事務所の開設、人事ソリューション企業での中小企業向け人事コンサルティング・人材開発研修に携わり、「よりよい人生を送る人を増やしたい」と、KAO Coaching Spaceを開設し、パーソナル・コーチングに力を入れ始める。組織を変革させたい中小企業に、エグゼクティブ・コーチング、組織のシステム・コーチング、研修を提供中。2015年4月、保育園向けに人間関係構築プログラムを提供する「保育園の笑顔」を開設。


木村 史子
CTI認定プロフェッショナル・コーアクティブ・コーチ
CRRグローバル認定 組織と関係性のためのシステムコーチ
一般財団生涯学習開発財団認定ワークショップデザイナー

1973年4月7日生まれ。O型 おひつじ座。東京都大田区出身。
慶應義塾大学総合政策学部卒業後、株式会社リクルートマネジメントソリューションズにて一貫して人事ソリューション事業に携わる。自身の結婚・不妊・出産・ワーキングマザーとしての経験を経て、ビジネスだけでなく、個人の人生全体をサポートすることにシフトし、コーチとして独立。2015年4月、川添と共に「保育園の笑顔」を開設。